どうでもいいことをつぶやいたり、企画のお知らせしたり、
らくがきupしてみたり。ぐだぐだ日記。
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部屋に戻って来た総悟は肩を落とした。
と言っても実際端から見たらそんなことは悟らせないような普段通りのポーカーフェイスなのだが。この体は便利に出来ているもんだ。
と言うのも、開いた障子の先にもう彼女は居なかった。
朝起きたら理由もわからず体が取れ立て新鮮エリンギなサイズにまで縮んでいて、
挙げ句いつも自分を困らせる悪戯好きのワルガキにざんざん弄ばれて、怖い目に合わされて、泣かされて…そんなかわいそうなちび猫。
大方総悟が出ていった隙でも見計らって部屋を抜け出し、土方の元へでも行ったのだろう。
予想していたこととはいえ、ため息が漏れる。
あの娘は自分が何をしても、どんな仕打ちを受けても怒らない、総悟の事を嫌いになってはいけない。
考えてみれば、そんな免罪符は存在しないし、そもそも発行した覚えすらない。
当たり前だ。自分とアレとは特別な関係など何もない、只の虐めっ子と虐められっこの関係なんて、そんなの嫌われて当たり前。それでも…
総悟は持ってきた小さな盆を文卓の上にカタリと置いた。
「それでも…」は、甘え以外の何ものでもない。
くるりと部屋の入り口をみやる。誰もいない。ただ静かに閉まった障子が見えるだけ。
おや。
ふと疑問がよぎる。小さな体で出ていったのだとしたら、部屋の障子を開けるのは至難の技だろう。
でもちゃんと扉は閉まっていたし、総悟がいない間にもとに戻ったとも考えられなくもないが、それなら土方の怒声が飛んでこないのもおかしい。
疲れているようだったし彼女が気を利かせて言わなかったとか?でも。うーん。
その時、本当になんとなしに部屋の隅の押し入れが少しだけ開いていることに目が止まる。
今朝は急いで飛び出していったから、多少荒く押し入れの扉が上手く閉まりきっていなかったのか。
「居るワケない」そう考えながらもどこかで居て欲しいなんて思う自分が居ることにほとほと呆れ果てながら、総悟はそーっと押し入れの隙間を少しだけ開く。
その瞬間聞こえた聞き馴染みのある声に、総悟はこめかみを冷たい汗が伝うのを感じた。
「いやあああああああああ!!!!」
一瞬総悟に見つかった事に対する拒絶かもしれないと思い胸が痛んだが、
違う。そんな悲鳴ではない。
総悟が怖いとか嫌いとかじゃなくて、もっと、命の危険に晒されたときのような、切羽詰まった悲鳴。
「やあああああああ!きゃあああああ!!助けて!!」
「姉さん?姉さん!」
押し入れの奥から聞こえてきた声は今にもとって食われそうなほど切迫していて、思わず総悟はがばりと畳にほっぺを付けて暗闇の奥を伺う。
押し入れには使わない季節物の服やら布団やら「玩具箱」やらが詰まっているが、いつ潰すかわからないので取り出したりどかしたりできない。
「大丈夫ですかィ!どこにいる?」
「ふえっ、やっやだああ!!助けて!土方さん!!」
「くそ」
助けを呼ぶ名が土方なのはいただけないが、総悟はめぼしい隙間に思いっきり手を突っ込んだ。
ネズミやゴキブリなら恐ろしいとは言え無害。まかり間違ってどこかから紛れ込んだムカデやら蛇やらに遭遇していたら。
小さな怪我じゃすまない。
だから突っ込んだ瞬間イカとかタコのように必死に絡み付いてきた小さくて暖かい感触に、一瞬びびったけれど本当にほっとした。
握りつぶさないように、しかししっかりと包んだ掌を押し入れから引っこ抜けば、ほこりまるけになった屯所の猫が泣きながら手にしがみついて付いてきた。今度押し入れの中を掃除せねばなるまいな。
コアラのように親指にぎゅううと抱きついた小さな体がかたかたと震えている。くぅ、と胸が痛んだ。やっぱり、自分以外が泣かせたこの娘を見るのは落ち着かない。
……自分で泣かせておいてもたまに…あるけれど。
「ひっく、えぐっ、うええぇ…!」
「大丈夫でさぁ、姉さん。どうしやした?何が出た?」
「すっごく…おっ、き…クモ…!」
「そーかそーか…怖かったろ。すいやせん俺の押し入れ汚ねェから…」
小さな体を抱き寄せ、そーっと頭を撫でてやる。
土方のように上手く泣き止ませる事は出来なかったが、ひしっとしがみついてくるその温度に、総悟の心まで暖かくなった。
「沖田さんが、意地悪するから…隠れてようと思って、それで…ごめっ、ごめんなさ…」
「謝んねーでくだせぇ。俺も、その…悪かった…つい遊びすぎて」
「……ぃぇ…」
それより、それなんですか。
ちび猫が指差したのは先程総悟が持ってきた小さな盆。
ようやく落ち着いてきた娘にホッと息を吐いて、総悟は娘を盆の隣に乗せてやった。
「昼飯…食ってねーだろアンタ。腹減ってねーかなって思って…」
「わあ…!」
盆の上に乗っていた皿には、二粒の巨大なイチゴが乗っていた。
端から見たら普通のサイズなのだが、今の屯所の猫には両手で抱える大きさだ。
「食べていいですか」と聞くちび猫に頷けば、彼女は笑顔でイチゴにかぶりついた。
総悟は目を細める。
……良かった、泣き止んだ。
しかしその結果、着ていた着物が果汁でべっとべとになったのは言うまでもない。
つづく。
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